『環様の手まで煩わせて……ムカツク子ね』
その言葉を聞いた時、あぁ…コイツが犯人かってすぐに分かった。
そして
その言葉の響きに含まれた嫉妬や憎しみにも…
「さーてと。そろそろ部活行こうかな…っと、もうこんな時間か」
読み終えた本を閉じて時計をみたは、驚いた。
読書に集中していたせいか、部活の時間になってしまっていたことに気付かなかった。
しかし、慌てる事なくはゆっくりとした動作で鞄に本をしまうと、立ちあがって伸びをした。
ふゎ…と出てきそうになる欠伸を噛み殺す。
伸ばしていた腕を下ろしてポケットから携帯を取り出し、ボタンを触って何処かへメールをする。
送り終えるとポケットに仕舞って、鞄を持ち上げた。
教室を出て廊下を歩き出す。
(………ん?)
もう直ぐで音楽室へと続く階段…という所で、は妙な音を聞いた気がして立ち止まった。
不思議に思いながら、音のした方向に目をやる。
音のした方向にあったのは――――池
校舎の真ん中付近にある小さな池から、その音は聞こえた。
普通の人だと分かり難い程の小さな音
は近づこうとして、その池の縁に、誰かが佇んでいるのに気がついた。
見つからないように壁際に寄って身を隠した後、覗きこむようにしてそこを見る。
(……え?)
見た瞬間にあった光景に、は目を疑った。
(あれは……綾小路…?誰の鞄を持ってるんだ…?)
そこに佇んでいたのは、ホスト部の常連であり環のお得意様である綾小路だった。
不機嫌そうな顔をしていて、その手には鞄が持たれていた。
は、怪訝そうに眉を寄せてその光景を見やった。
音を立てないように、鞄の中からカメラを取り出す。
念の為、綾小路にカメラを向けた。
何かあったら、写真に抑えなければならない
それが、の役目であり、”仕事”である。
「 」
「?――ッ!?」
カメラを向けた直後に何事か呟いた綾小路は忌々しそうな顔をして、持っていた鞄を池に放り捨てた。
その光景を見たは驚きに目を見開いた。
慌ててはカメラのシャッターを切った。
綾小路は投げ終えて、池の中に鞄の中身が散らばったのを確認した。
そして、写真を撮られたことには気付かずに、その場を去っていった。
その光景の一部始終を目撃してしまったは唖然とした。
暫く、カメラを構えたままその場に立ち尽す。
ハッとは我に返ると、付近に誰も居ない事を確認してから、カメラを直し池に近づいた。
(誰のだったんだ……?)
プカプカ浮いている鞄とその中に入っていた物たちを見て、は眉を顰めた。
誰のにしろ、酷い事をする
(……あ?あれは…学生証?)
はその場に片膝をついて、池の中に浮いている薄っぺらい革質の物体を拾い上げた。
それは、確かに学生証だった。
桜蘭高校に通っている者ならば、誰でも持っている…
いい材質で作ってあるので、中身の用紙は濡れてないらしい。
その用紙に書かれている名前を見た途端、は目を見開いた。
(藤岡ハルヒ……ハルヒのか…!?)
見間違いかと思い目をこすってもう一度見てみるが、間違い無くそれはハルヒのもので…
池に浮かんでいる鞄と物品、それと手に持っている学生証を驚きの表情で見比べる。
(綾小路の奴……ここまでするか…)
は溜息をつくと、学生証を胸ポケットに仕舞った。
『あの坊やに気を遣っているのよ。でも…気に食わないわね』
あの時聞こえた言葉は、ハルヒに向けられた言葉だったようだ。
その証拠に綾小路はハルヒのことをよくは思っていなかったみたいで、遂には鞄を捨ててしまう始末。
は再び溜息をつくと、池の中に浮かぶ鞄へと手を伸ばした――その時
(―――!)
人の来る気配がして、は顔を上げた。
顔を上げた方向から、人が歩いてきていた。
鞄を拾い上げることを止め、は立ちあがって音を立てないように校舎に向かい身を隠した。
身を少しだけ乗り出して、様子を伺い窓際に佇んでいる人物を見ては驚いた。
(ハルヒ……それに綾小路まで)
その人物は呆れたように溜息を吐き、コチラに向かってこようとした。
所で、まだ近くにいた綾小路とぶつかってしまう。
何やら言葉を交わした様子の二人だが、ここからでは聞こえない。
出て来て池に入ったハルヒを目で追い、止めようとして背後から誰かが近づいてくるのに気がついた。
「あ??こんな所で何やってるんだ?」
「……環」
後ろを振り向くと、よく見知った顔が立っていた。
相手は足を止め、声をかけてきた。
「…というよりも、もう部活始まってるぞ」
「そういう環も何してるの?こんな場所で」
「俺はちょっと用があってだな…」
逆に問われて言い訳しようとしていた環の言葉が止まった。
視線はとある方向に向いている。
そして、視線だけをこちらに向けてくる。
は無言で頷けば、環は溜息をついて腰に手を当てた。
環は事情を知らない。
ただ、ハルヒが部をサボって水遊びをしている、という風にしか見えていないのだろう。
は笑うと、ハルヒの方に向かっていった環の後ろを追いかけた。
そして、は何事も無かったかのようにハルヒの前に姿を現すのだった。
**途中コメント**
第五話と第六話の閑話…といった所でしょうか。
5,5話って感じですかね。(笑)
なんだかすっきりしなかったので、書いてみました。
次からは新しい話に移ります。
06,1,24