(……これは…流石に……)
目の前の光景を見て、ハルヒは眉を顰めた。
翌日
部活の為音楽室へ向かおうと教室を出ようとしてハルヒは鞄が無いことに気付いた。
机にかけておいたはずの鞄は、少し席を外した隙に何者かに盗まれたらしい。
仕方なく探しに出たハルヒは、とある場所で立ち止まった。
それが今、目の前に広がっている光景である。
探していた鞄は、校内にある池の中に放り込まれていた。
溜息をついたハルヒは、鞄を拾いに外に出ようとした。
所で、人にぶつかってしまった。
「あ、すみませ……」
「あら。庶民の…」
(あ。確かお得意様の…)
「環様たちのお蔭で小奇麗になれて良かったわねぇ?」
「パっと見うちの生徒みたいよ?」と口元に手を当てて、ぶつかった相手―綾小路は笑った。
自分は何も知らないと言った感じで、綾小路はハルヒと別れ様に言った。
「ついでに育ちの悪さも直したらいかが…?」
「……」
遠ざかって行く綾小路の背が見えなくなった後、ハルヒは再度池に向かった。
「おそらく…犯人はあの人なんだろうけど……」
パシャ…と、池につかり鞄と散乱してしまっている中身を拾い始めながら、呟く。
理由はともかくとして、財布には今週分の食費が入っている。
泣きたくなるのを抑えようと、ハルヒは汗を二の腕まで捲り上げた袖で拭いた。
(もう少しだ…)
パシャ…と水音を立てながら、最後に残った財布を探そうと池の中に腕を入れた。
その時だった。
「こぉーら!庶民!」
「でっ…!」
「た、環!殴る必要は無いだろ?!」
ゴチっという音と共に頭に走った激痛に、ハルヒは顔を顰めた。
驚いて顔を上げると、明らかに怒っている様子の環が居た。
その横には、驚いた様子で宥めにかかっているが居る。
仁王立ちで立っている環の腕を掴んだは、ハルヒを見た。
「あ゛ー…あの姫さんは…ハルヒ、大丈夫か?」
「あ、ハイ…」
「部をサボってどこにいるかと思えば…」
「環、説教は後でいいから。探すの手伝おうよ。」
「…それもそうだな。後、何が残ってるんだ?」
「はぁ…財布だけなんですけど…」
「馬鹿者!財布は常に身につけておくものだぞ」
「……お金持ちのくせに考えがセコイぞ、環」
なんとか環を宥めたも、池に入った。
腑に落ちない様子だった環も、とりあえず探すのを手伝うことにした。
バサ…とシャツを脱いで池に入る。
「相変わらずハデだな」
「そうか?そうでもないと思うぞ?」
「…環は人と少しずれたところがあったんだったな…」
「何を言う!俺は普通だ」
「はいはい。後でいくらでも聞いてあげるから今は集中して。」
「そうだな。大体ハルヒ!お前は探し方がぬるいんだよ」
「え……?」
環との痴話喧嘩の言い合いにも、最近慣れたハルヒは探すのに集中していた。
急に話題を振られ、環に顔を向ける。
ハルヒの視線の先で、おもむろにガバァと思いきり池の水を弾いた環に驚く。
横で目元に腕をやり水の沫を避けたは、溜息をついた。
「…お風呂じゃないだぞ」
「バーカ。水もしたたるっていうだろ?な。」
「……はぁ。どうでもいいけど、周りの迷惑考えろよな」
珍しくカッコ良く決めた環だが、には効果が無かったみたいで。
背筋を伸ばしたは溜息をついた。
ハルヒとじゃれ始めた環を横目に見た後、は再び腰を曲げて、水中の中に腕を差し入れた。
暫くの間水中の中をさまよわせる。
と、コツンと指先に何かが当たる感触があった。
その物体を掴んで、水中の中から引っ張りだした。
「ハルヒ」
「はい?」
環から逃れ再び探し出していたハルヒの名前を呼んだ。
呼ばれて顔を上げたハルヒに、は手の中の物を見せた。
「これ?」
「あ、はい。そうです。ありがとうございます。」
「そう。良かった。大分濡れちゃってるけど大丈夫かな?」
「……さぁ」
渇いた笑いしか出ないらしいハルヒに、も苦笑いした。
環に報告し、三人で万歳した後、風邪を引かないうちに池から上がった。
「んじゃ、遅くなったけど部活行くか。」
「そうだな。」
「…自分のせいですみません。」
「謝らなくていいよ。ハルヒのせいじゃないんだし」
「そうだぞ。だが、遅くなる時はちゃんと言うように。」
「はい」
シャツに腕を通し、腕時計で時間を確認した環は言った。
申し訳なさそうな顔をして謝って来たハルヒに、二人は顔を見合わせてから笑った。
そして、ポンッと、はハルヒの頭を安心させるかのように叩いた。
一瞬、驚いた顔をハルヒはしたが、その顔は直ぐに笑顔になった。
それを見て、と環は安心したように笑った。
そして三人並んで、部活へと向かった。
**途中コメント**
少し長くなってしまったので分けてみました。
あと1話じゃ終わりませんでしたね;
次で終わります。
06,1,10