「はーなーせー!こんのぉ…ひとさらいー!!」
「な…っ?!誰が人攫いか!」
「…紛いのことはしてると思うよ。なぁ、鏡夜?」
「そうだな。」
「崇、十八番取られちゃったね」
「……あぁ」

 

 

 

初等部から高等部の建物内に戻ってきて、音楽室へ向かう途中

ギャーギャー五月蝿い鷹凰子を肩に抱えた環は、キレ気味だった。

その後ろを、を始めとするホスト部部員全員が追い掛けるように歩いている。

 

とうとう”人攫い”まで言われた環が、キレた。

が、と鳳が環ではなく鷹凰子に同意をしたことで、環の怒りはすぐに沈下した。

 

 

 

「…っとに!!降ろせってば!バカキングっ!!」
「なっ…!?馬鹿はお前だろーが!!」
「?!」

 

 

 

いつまでも喚き散らし、ジタバタと暴れている鷹凰子を一喝する。

突然真剣な音色で怒鳴られ怯んだのか、鷹凰子はビクっとして黙りこんだ。

 

 

 

「女を喜ばせる方法だぁ?はっ、笑わせんな。そんなの、いくら俺達に聞いたって答えなんか教えられるか」
「なっ…!?」
「お前が喜ばせたいのは、不特定多数の女の子じゃなくて。『彼女』1人だろーが」
「…!」
「そんな方法、お前にしか見つけられるわけないだろう」
「確かに、俺達は元々関係ない立場の人間だし。年も違うからね」

 

 

 

大人しくなった鷹凰子をいつもの調子に戻った環の肩の上から降ろす。

よっ、と廊下に足をつかせ、は俯いた鷹凰子の顔を覗き込むように腰を屈めた。

小さく震える細っこい肩に両手を優しくおいた。

 

 

 

「…でも、そんな俺達でも君の力になってあげたいんだ。環だって、別に考えなしに行動してるわけじゃないだろうし」
「……はぁ。お見通しってわけか。お前はどうしても欺くことができないな。なあ?
「一応、褒め言葉として受けとっておこうかな。」

 

 

 

腕を組み、呆れたようにため息をついた後苦笑した環には微笑んだ。

その優しい笑みのまま、鷹凰子の方を向いて語りかける。

 

 

 

「だからね。もうちょっと素直になったほうがいいんじゃない?その方が、あの子だって喜ぶと思うよ?」
「…いーよ、もう。時間ないし……」

 

 

 

の顔を真っ直ぐに見ていた鷹凰子は表情を曇らせると、再び俯いた。

そして、ポツリ…と呟いた。

 

 

 

「僕が好きだったのはピアノじゃなくて…あいつが行っちゃう前にせめて、あいつが弾いてるとこ見ときたいんだ。」
「鷹凰子くん…」
「だから――」

 

 

 

顔を上げ、寂しそうな切なそうな表情で鷹凰子は吐き出すように言った。

最後まで言い終わらないうちに、鷹凰子は黙り込んでしまった。

 

そんな鷹凰子を見て焦れたのか、環が再び鷹凰子を肩に担いだ。

 

 

 

「環…?」
「ちょ…っ!?」
「いーから!お前は黙って担がれていろっ!」

 

 

 

そう言って、環は先ほどよりもスピードをあげて再び歩き始めた。

はハっと我に返ると、慌ててその後を追い掛けた。

 

 

環は音楽室のドアを乱暴に開け放ち中に入った。

そして、いつも着替えや荷物置きとして使っている部屋へと続くドアの横にあるドアに開けて入っていった。

その後をたちもぞろぞろと入った。

 

 

 

「…ピアノなんかあったんだ」
「「そりゃ、一応音楽室だし」」
「音楽室だからな」
「音楽室だもんな、一応は。ホスト部として使ってるけど」
「見えないとこに前からあったんだよvね、崇」
「(コクリ)」

 

 

 

部屋の中にポツンと置かれたグランドピアノの前に、鷹凰子を座らせた環。

鷹凰子が持って来た楽譜を勝手に開いて、曲を確認した。

 

 

 

「今の課題曲は?…シューベルト?ソナタの連弾用か…」
「え…」
「それは、環の得意なヤツの1つだね」
「楽勝」

 

 

 

の言葉に、フ…と環は笑うと鷹凰子を椅子から退かし自分が座ると、ピアノを弾きだした。

無駄の無い軽やかな指の動きで鍵盤を弾いていく。

静かな室内に、綺麗なピアノ音が響き渡った。

 

 

 

「…俺には、あの子はお前と一緒に弾きたがってたように見えたけど―…?」
「………」
「どうする気?環」
「フ…時間ならある!!というわけで、1週間集中大特訓!!早朝・昼休み・放課後を使ってな!」
「いっ!?」
「あー…とりあえず、鷹凰子くん頑張れ。ああなった環は結構しつこいし、五月蝿いからな。」
「そうだな。」

 

 

 

早速鷹凰子を椅子に座らせ大特訓を始めた環を、は鳳と顔を合わせて苦笑しその光景を見つめた。

 

 

 

**********************

 

 

 

「ふうん…それじゃドイツの彼女とは毎日メール交換を?」
「うん、まーね。けどあいつ、意外とヤキモチやきなの。だから、こんなキレーなお姉さん達と仲良くしてるなんて、ヒミツな?」
「やーんvvかわいー!」
「な…何故に…」
「ふふん。女にモテんのなんて簡単だね。あんた、本当にキング?」
「んなっ!?」
「た、環っ。落ちつけって…!」

 

 

 

鷹凰子が神城と一緒にピアノを弾いて数日後

ホスト部に完全に居座ったらしい鷹凰子がニっと笑って、女子生徒と話している光景を見ていた環が震えた。

その環に気付いた鷹凰子が偉そうに挑戦的な言葉を言った。

その言葉に再びブチっと切れ、暴れそうになった環をは常陸院兄弟と協力して押さえ込む。

 

 

そんなやり取りが暫くの間、ホスト部で繰り広げられることとなったのかどうかは環たちのみぞ知る。

 

 

三十一話  三十三話→

 

**途中コメント**
今回の話で「ちっちゃな〜」編はおしまいです。
次は鳳財閥経営のプールの話ですね。
頑張って書きます…!
ので、宜しくお願いします。

07,1,25