「ヤバ…また遅刻する…」

 

 

 

パタパタパタ…と無人の廊下を走りながら、は時間を確認した。

 

既に部活が始まって20分が経過しようとしている。

 

は誰も居ない廊下に響くくらいの大きさで舌打ちをした。

他の誰かに聞かれていたら、意外そうな顔をするだろう。

 

 

(…にしては、やけに静かだな)

 

 

部室となっている音楽室へと続く階段を駆け上がりながら、不信感を抱く。

部活が始まっているにしたら、いつもは女子生徒が廊下まで埋め尽くすほど来ているはずだ。

だが、今上がっている階段にもその先の廊下にも、女子生徒の姿はない。

それどころか、いつもはここまで聞こえてくるはずの賑やかな声も聞こえてこない。

 

は駆け上がる速度を落とした。

ゆっくりと最後の段を上り、辺りを見回す。

 

――誰も居ない

 

一通り見回し、廊下を歩いて音楽室へと向かう。

音楽室の前まで来ると、中の様子を伺うようにドアに近寄った。

 

 

(? おかしいな…)

 

 

何も聞こえない。

いつものあの騒ぎ声も、女子生徒の黄色い悲鳴も。

 

 

 

「環…?鏡夜…?」

 

 

 

部長と副部長であるクラスメイトの名前を呼びながら、ドアを開けた。

 

そして、僅かに目を見開いた。

 

直ぐに冷静になると、辺りを見まわした。

 

そこには誰も居なかった。

お茶の入ったティーセットもケーキの乗ったお皿も、そのままテーブルに残っている。

 

まるで人だけが消えたみたいな

 

は音楽室の中に用心深く入った。

 

 

 

「…出て行くなら出て行くで、片付けぐらいしていけよな」

 

 

 

ポツリ…と呟くと、冷めてしまっている紅茶の入ったカップを手に取った。

カチャリ、と食器の乾いた音が虚しく響いた。

はそれに苦笑すると、持ち上げたカップをテーブルに戻した。

 

再び視線を上げ、音楽室内を見渡す。

 

 

(何処行ったんだ…アイツらは)

 

 

そういえば、環がやたらと鷹凰子の心配をしていたな。

ふむ…とは腕を組んで考え込んだ。

 

環がやりそうなことを考えれば、すぐに居場所は割り出せるだろう。

 

 

 

「…とすれば、行き先は初等部かな。確か鷹凰子くんは小学生だったような…まぁ、考えるよりはまず行動、かな」

 

 

 

「環のやり方だけどね。」と苦笑気味に言って、は音楽室を出た。

 

 

 

**********************

 

 

 

「やっと見つけたよ、皆」
「「あ、先輩」」
「おぉ、!!どうしたのだ?」

 

 

 

音楽室を出てから1時間後、はようやく、部員を発見した。

全員を見渡し、一点で目が止まった。

 

 

 

「…ハルヒとハニー先輩は、何やってるの?」
「……好きでやってるわけじゃありません」
「えー?可愛いでしょー?」
「まぁ、似合ってるけども…」

 

 

 

ハルヒと埴之塚の格好に、は驚いた。

初等部と中等部の制服なんて、何処から仕入れたのだろうか。

多分誰かのお古か借りたものだろうが…

 

ため息をつくと、は鳳を見上げた。

 

 

 

「なんで鏡夜まで付いてきてるのさ。普通止めない?」
「なんでと聞かれると面白そうだったから。としか答えられないな。それに、止めてもいいが、俺には何のメリットもないからな。」
「…あぁ、そ。」

 

 

 

ニッコリと爽やかな笑顔で言われて、は呆れた。

その間にも他の部員は皆、何かを覗き込むように見ていた。

 

は不思議に思い、何の教室かを確認した。

そして環の傍に行き、中を覗きこむ。

中にはピアノが沢山置いてあり、ヴァイオリンやリコーダーを持った初等部の子が大勢居た。

 

その中に窓際に座っている、見覚えのある顔を見つけた。

その子は話し掛けてきた二つ結びをしている女の子と話し出した。

その顔は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。

 

少し話した後に、女の子が悲しそうな顔をしてピアノの前に行き弾き始めた。

見覚えのある顔―鷹凰子は、その音を聞きながらとても幸せそうな顔をした。

 

 

(…あぁ、そっか。確かあの女の子は…)

 

 

が鷹凰子の態度の原因に気付いたのと同時に、環は小学生の女の子相手にナンパしていた。

 

その様子をハルヒと一緒に呆れた顔で見る。

 

 

 

「え…神城雛ちゃん?あのね、もうじきひっこしちゃうの。お父さんのお仕事でねえ…」
「何してんだよっ!? 何の用だよ!こんなとこまで!!」

 

 

 

女の子に話を聞いている途中で、鷹凰子が音楽室から飛び出して来た。

傍までやって来た鷹凰子を、立ち上がった環が軽々と抱え上げた。

 

その環の行動の早さに、は目を見開いた。

そして、出していた両腕を自分の方に引き寄せる。

 

 

(…なんだ、同じことを考えていたわけね)

 

 

は苦笑すると、ズンズンと前方を歩いていく環の後ろ姿を追った。

 

 

三十話  三十二話

 

**途中コメント**
久々の更新です…!
そしてあまり話が進みませんでした;;
久々すぎたせいか、主人公の口調を忘れかけておりました;(をぃ)
話が分かり難かったら本当スミマセン;

07,1,21