「…なー、鏡夜」
「なんだ、」
「やっぱ、さ。あの作戦はまずかったと思うぞ、俺は。」
「今更な発言だな、。そう思っていたならもっと早くに止めればよかっただろう?」
「止める事が出来ていたなら、こんな事態にはなっていないと思う。」
「まぁ、それもそうだな。」
横でウンウンと頷いている冷静な鳳と、は目の前で繰り広げられている騒動とを連動させて目眩を覚えた。
額に手をあてて、前かがみになって唸る。
どうして、ウチの部はこうも何か騒ぎを起こさないと気が済まないのか
はぁ…と深くため息をついて背筋を伸ばしたは、環を睨んでいるハルヒに近づいた。
「ハールヒ」
「……先輩」
「なんか、ごめんな?いつもこんな馬鹿なことに付き合わ…」
「…どうしていつも先輩が謝るんですか。」
「え?」
頭をかきながら、苦笑顔で謝罪の言葉を口にする。
が言い終わらないうちに、ハルヒが口を開いた。
目を見開き意外そう顔をしてハルヒを見た後、は更に驚いて目を見開いた。
口にした張本人であるハルヒも、ハっとして目を見開いていたからだ。
「な…なんでもないです」と慌てて言ってくるハルヒに、はただ黙って頷いた。
頷いた直後に、は照れたように頬をかくと、ハルヒの肩に腕を乗っけた。
「!! 先輩?」
「―俺が謝ったのは、あいつらを止めきれなかったからだ。」
「え…?」
「まぁ、止めきれずその話に思わず乗っかった俺も悪いと思っているんだけど…多分、これからもこんなのが続くと思うけど。慣れれば平気だから。」
「は…?」
「慣れてもらっても困るんだけどな。誰も止められなくなるから。やっぱ止めるべき人間は必要だと俺は思うからな。」
そう言っては柔らかく微笑み、ハルヒの頭を撫でた。
クシャクシャにされた髪を直しながら、ハルヒは離れたを見上げた。
その仕草が可愛らしくて、は再び深く笑んだ。
「細かいことは気にするな。ただ口をついて出ただけかもしれないし。」
「はぁ…」
「もう話は済んだか、二人とも」
「!」
「あ、鏡夜」
不思議そうな顔をしていたハルヒがようやく笑ったところで、鳳が話に割り込んできた。
何時の間にか傍に来ていた鳳の姿を視界に入れる。
そこでようやく、鳳以外にもいることに気が付いた。
「―ではハルヒ。隣の教室に口止めした医師を待機させてあるから。」
「今日集まった医師って、全部鏡夜先輩んちの病院から来てんだってさ」
「鏡夜先輩も早く言やいーのに」
「あぁ、だからか。見覚えのある顔ばかりだと思ったんだよな。」
「先輩も知ってたん?」
「当たり前だろ。」
「「ちぇ。先輩も教えてくれりゃーよかったのに」」
「核心がなかったからな。でも1人だけ……」
「きゃあ!!」
「「「「「!?」」」」」
ハルヒが教室を出て行った後、が小さく呟いた言葉に双子が鋭く突っ込んだ。
それに笑いながら答えていると、突然窓際の方向から悲鳴が聞こえた。
ハっとすると、は悲鳴を上げた女子生徒に駆け寄った。
「どうしたの!?」
「あ…様…っ!そ、それが…!」
「い…今…窓から出て行ったお医者様が…私におかしな事を……」
「え?」
「「なんだそりゃ。さっきのヤブ医?いなくなってるし」」
「ああ…そういえばさっきとぶつかったのはうちの病院の医師じゃなかった」
「「…鏡夜先輩;其の方が責任問題では…」」
「藤宮姫、とにかく落ち着いて。誰か彼女をお願い。」
「は…はい…!」
カタカタ震えている女子生徒を一先ず落ち着かせ、近くに居た女子生徒に渡した。
すぐさま鳳に近づく。
「鏡夜。なんだか嫌な予感がする。」
「?」
「……変質者」
「あー、春だからなー。おかしな奴の1人や2人…」
「そだねえー」
「「アホだねー。近くの教室に隠れでもしない限り、どーせすぐ警備員につかまるのになー」」
「近くの教室で空いている場所と言えば…」
そこまで言って暫く沈黙した後、全員が一つの結論に至った。
(ハルヒ!!)
他の人達よりも少しだけ早く気がついたは、唇を噛み締めるとその場を駆け出した。
ドアを盛大な音を立てて開け放ち、閉めることも忘れて廊下を走る。
「ハルヒ!!」
ハルヒの名前を叫びながら、隣の教室のドアを壊れるのではないかと思うくらい強く開け放して中に飛び込んだ。
突然飛び込んできたに驚いた医師が、診断書から顔を上げてこちらを振り向いた。
それを視界の端に入れながら、ざっと室内を確認する。
開け放たれた窓に、風に吹かれて揺らめくカーテン
そして、ハルヒが着替えているであろう、ゆらゆら揺らめくカーテンに視界を止める。
その瞬間、ハルヒの焦った声が聞こえた気がして、は再び唇を噛み締めるとカーテンに近づいた。
椅子から立ちあがった医師が止めようとする声を聞き流し、思いきりカーテンを開け放った。
「ハルヒっ!!」
「先輩…?」
「!」
思った通り、中にはハルヒが居た。が、ハルヒ1人だけではなかった。
はその相手に見覚えがあった。
先ほど、ぶつかった見覚えのない医師…
そいつが今目の前にいて、しかもハルヒの肩を掴んでいた。
一気に怒りが最高潮にまで達し、は相手のことを睨みつけた。
「……その手を放せよ」
「!!」
「せ…先輩…?」
低く唸るような声を出したに、ハルヒは数日前の出来事を思い出した。
その時のも、今みたいな低く唸るような声を出していたような気がする。
いきなり豹変したに驚いた相手は、怯えた顔をしていた。
そんなことはお構い無しというように、は睨みを聞かせたまま、もう一度言った。
「放せっつってんだろ?!」
「は…はい…!」
相手がハルヒを離した一瞬の隙に、はハルヒを自分の方へ引き寄せた。
脱いだシャツで前を隠しているハルヒに気付き、近くにあったベッドのシーツを取ると頭からかけてやった。
「大丈夫か、ハルヒ」
「は…はい…」
「悪かったな。とりあえず、向こうで制服着ておいで。後で皆も来ると思うから」
「分かりました。」
笑って頷いて奥に入って行ったハルヒ見送った後、すぐさま顔を厳しくさせ相手に向き直った。
が顔を向けた瞬間、相手はビクっと震えた。
そんな相手を一瞥すると、はポケットを探り1枚の紙を取り出した。
「あんた、さっきコレ落としたよ。」
「!それは…」
「この制服、ここのじゃないんだけど。場所、間違えたんじゃない?」
「え……」
「そのことにも気付いてなかったんだ。しかもあんた、医師に間違われていることに疑問に思っているだろう?」
「何故それを…!」
「そこもか…。あんた、白衣着たまんまだよ。それじゃあ間違われてもしょうがないって」
「あ…!」
言われて慌てて着ていた白衣を掴んだ相手に、怒る気も失せたはため息をついた。
ピっとポケットから出したメモ用紙にペンで何か書き込むと、相手に差し出す。
「あんたが目指してる学校は多分ここ。行って来なよ」
「え…いいのか…?」
「当たり前だろ。うるさくなる前にいった方が良いよ。」
うるさくなってきたドアの方を指差しながら、呆れ顔で言った。
そんなに向かって相手はお辞儀をしお礼を言うと、去っていった。
途端に教室に環たちがなだれ込んできた。
「ちゃん、ハルちゃん!」
「無事か!2人とも!!」
「…ハニー先輩、環。鏡夜と双子も。モリ先輩まで」
「!今度は怪我してないよな!?」
「って!痛いよ、環!」
「よし。今回は大丈夫みたいだな。」
ガシっと肩を掴まれ、ドアップになった環の顔には引きつり笑顔を作った。
そんなはお構い無しに、の体を確かめた環は息を吐き出しながら呟くように言った。
は本気で心配した様子の環に向かって微笑むと、心の中で感謝の気持ちを唱えた。
その微笑みだけで、感謝の気持ちが環に伝わるのかどうかは分からないけれど
微笑むに気付いた環は下げていた顔を上げて、環もまたに向かってホッとしたように笑んだ。
**途中コメント**
なんか無理やりな感じになってしまいましたが
一応この話はここで終わりです。
本当は主人公にもっと暴れてもらう予定でした。
相手を殴ってもらうつもりだったんですが、流石に
そういうのが駄目な方も居るかもしれないので…;;
さすがに暴力はヤバイですよね。(苦笑)
感想・意見等ありましたら遠慮なくどうぞ。
06,7,19