「そこぉ!ちゃんと台本通りやれぇ!!」
「……あの娘、性格変わってないか…?」

 

 

 

宝積寺によってキャラ改革をさせられたメンバー(一部除く)

可愛い顔して実は鬼畜、というキャラに変えられてしまった埴之塚が、ハルヒに泣きついた所で宝積寺の止めが入った。

先ほどまで撮影をしていた双子は、文句を言いながら台本を見ていた。

 

 

 

「一見、光がリードしているが実は精神的大人の馨の方が攻め……」
「「そのままだから却下!!」」
「えー?そうなのぉ?」
「攻め……とは…?」
「ハルヒ。そこは知らなくてもいいことだから、気にするなよ。」

 

 

 

台本を投げ捨て、ガシガシと頭を拭きだした双子に埴之塚とハルヒがそれぞれに感想を漏らした。

その中で、は苦笑しつつ疑問がっているハルヒに言った。

不思議そうに見上げてくるハルヒに、更に苦笑する。

 

 

 

「世の中には知らなくてもいいこともあるってこと。」
「はぁ…」
「そんなことより、向こうから走ってくる奴の相手、頑張れよ。」
「え……?」

 

 

 

の指差した方向を見たハルヒの表情が、微妙に変化した。

そのことに気付いているのかいないのか、走って来た人物は意気揚揚にハルヒに声をかけてきた。

 

 

 

「ハルヒ!!」
「……先輩」
「どうだ!?俺の演技力は!」
「ある意味凄かったです。」
「同感。どうしてそこまで陶酔できるんだ、お前は」

 

 

 

直球で言ってのけたの言葉に、環がショックを受けてその場に跪く。

シクシクと、重い空気を背負い出した環に、ゲっという顔をとハルヒはした。

自分で招いてしまったこととはいえ、は何て言葉をかけようと必死に考えを巡らせた。

 

 

 

「……、お前もはっきり言うようになったな」
「…そう?こうでもしないと止まらないだろ、お前は」
「お前最近、鏡夜の奴に似てきたんじゃないか?」
「そう?俺は元々こういう性格だけど?そういう環こそ、根暗度がアップしたんじゃない?」

 

 

 

地面に両手をついてしゃがみ込んだまま見上げて来て言った環に、も負けじと見下ろして言い返した。

そう、が言った瞬間、冷たい空気がその場を通り過ぎて行った。

 

(…悪寒?)

 

傍にいたハルヒは思わず身を震わせ、両腕を掴んで自身を抱きしめた。

そのハルヒの目の前では、未だにと環の睨み合いが続いていた。

 

 

(早く視線はずせよ)
(やだよ。それじゃあ俺が負けを認めるってことでしょ?そんなの絶対嫌だね)
(…常陸院兄弟にも似てきたんじゃないのか、
(そんなことより、環。早く視線ずらせよ。)
(断る)

「何で!?」

 

 

 

思わず口に出してしまったはハっとして、自分の手で口を塞いだ。

電波で会話をしていた二人の空間は、が視線を逸らしたことによって無くなった。

パンパン、とズボンについた砂を払いながら、環が立ちあがる。

は目を見開き口を押さえたまま、立ちあがった環を見た。

 

 

 

「……さり気に今、キャラ変えてたな?」
「…バレてたか。流石は環。」
「あのな…」

 

 

 

ニッと笑った見て、環は盛大に溜息をついた。

いつも通りに戻った二人を、ハルヒが不思議そうに見つめる。

それに気付いたは、ハルヒに顔を向けた。

 

 

 

「あ…ごめんな、ハルヒ。」
「え…?」
「俺もさ、宝積寺さんにキャラ変えさせられただろ?」
「あ、先ほど何か言われてましたよね。」
「そう。それがさ。『いつもは穏やかに見せているけれど実は腹黒く口が悪い』だったんだ。」
「…そうだったんですか。」
「ああ。でもさ、それって本当のことじゃない?」
「え…?」
「人間、誰にでも黒い部分があるってこと。…一部例外もあるけど」

 

 

 

そう言っては視線を環が居る筈の場所へと移した。

しかし、もう既にその場に環の姿は無かった。

 

何処へ行ったのだろう、と辺りを見まわす。

すると、少し離れた所で、常陸院兄弟にいじられている所だった。

 

 

(何してんだか)

 

 

折角、ハルヒといい感じに持っていってやろうと思っていたのに…

は頭に手をやって、息を吐いた。

 

 

 

「ハルヒくーん。ちょっと手伝っていただけるー?」
「あ、はい。あの、ちょっと行って来ます。」
「ああ、行っておいで」

 

 

 

すまなさそうな顔をして言って来たハルヒを、は笑顔で見送った。

ちらっと、宝積寺の方を見てから。

 

 

 

「ハイ?何か…」
「この方々に出演交渉したいと思ってv説明してあげて下さらない?」
「あ゛?何か用か特待生」

 

 

 

呼ばれて行けば、宝積寺と一緒にD組の男子二人がいた。

ハルヒは冷汗が背中を流れていくのを感じながら、宝積寺を見つめた。

そんなことには気付かずに、宝積寺が意気揚揚に続けた。

 

 

 

「クライマックスには悪役がつきものですものね!!

バラバラだった部員達が仲間を真の悪者キャラに傷つけられた事によって1つになる!!

まさにうってつけなのですわ!彼らは!」

「あ゛あ゛!?なんだ、なんだ!?」
「この女ひでぇぞ!!」
「ちょ…っれんげちゃ…」
「最後は鏡夜様の感動的なお言葉で、学校一の不良も改心するという素晴らしいエンディングなのですわ!!」
「……れんげちゃん」

 

 

 

ペラペラと軽やかに言葉を紡ぎ出す宝積寺を止めようと、ハルヒは必死に名前を呼んだ。

それでも止まらずに、宝積寺はキラキラと瞳を輝かせて明後日の方向を見てブツブツと言った。

 

 

 

「…そういうのって便利なのかもしれないけど」
「え…?」
「『枠』で人を計ってたら、見えないものもたくさんあるんじゃない?」
「…?」

 

 

 

ハルヒの言っている事が分からないのか、キョトンとしたが宝積寺は直ぐに戻ってD組の一人の腕を取った。

 

 

 

「ちょっ…!」
「さ!!とにかくこちらでスタンバイを…」
「うわ、こら!テメェ、さっきから好き勝手言いやがって…!A組だからって図にのってんじゃねえぞ!」
「きゃっ!!」
「危な…っ!」

 

 

 

思いきり突き飛ばされた宝積寺の先にあるのは、ライトが沢山設置してある鉄格子。

ギョッとしたハルヒは助けようと走り出した…

 

が、その横をハルヒよりも先に通る人影があった。

 

 

 

ガンっ!!

 

 

 

「……ッ!」
先輩!!」
さん!?」

 

 

 

ズル…と宝積寺を抱えたまま、ハルヒの横をすり抜けて来た人影―はその場に座り込んだ。

痛む肩を押さえ、は伏せていた顔をあげ宝積寺を捕らえた。

 

 

 

「だいじょう…ぶ…?宝積寺さん…」
「わ…私は大丈夫ですけど…さんは!?」
「俺は…平気…」

 

 

 

そう言っては笑んだ。

そう言ってみたものの、実際は背中が全体的に痛くてつらかった。

しかし、宝積寺と傍に寄ってきたハルヒに心配をかけまいと、は笑ったのだ。

 

ゆっくりと立ち上がると、はD組の二人に近づいた。

そして、宝積寺をフッ飛ばした方の襟足を掴んだ。

 

 

 

「…お前は、人を傷つけるような真似が出来るような立派な奴なのか?」
「はぁ!?何言って…」
「人をぶん投げて、それで怪我をさせてもいいようなそんな立派な奴なのかって聞いてるんだ!!」
「――!」
!?何だ今のお…と…」
「今度こんなマネしてみろ!俺が許さないからな!分かったか!?」
「は…はいーーー!!」

 

 

 

すっかり怯えた顔をして、D組の二人は去っていった。

物音を聞きつけてやってきた環たちは、の様子に驚いたようだった。

 

 

 

…?」
「……環」

 

 

 

恐る恐る声をかけてみる。

と、環の声に気付いたがゆっくりと、環の方を振り向いた。

環を視界にいれた途端に、は環の名を呼ぶとその場に崩れ落ちるように倒れた。

慌てて環はを支えた。

 

 

 

!?」
「…ごめん、環。ちょっとやりすぎちゃったみたいだ」
「アホだろ!?お前、無茶するにも程がある!」

 

 

 

へらっと笑ったに、環は言った。

キョトン、とは真剣な目をしている環を見て、驚いた後微笑んだ。

そして、「ごめん…」と呟くように言った。

それに「分かればいいんだ」と安心したように環は言った。

 

 

 

「歩けるか?」
「ん…ちょっと無理かも…」
「そうなのか。じゃあ、失礼して…」
「え…!?」

 

 

 

環は意地悪そうに笑うと、苦笑したを軽々と抱えあげた。

それに驚いたは、声を荒げた。

 

 

 

「ちょっ…!環!?」
「歩けないのだろう?だったら仕方ないだろうが」
「それはそうだけど…!」

 

 

 

とてつもなく恥ずかしい…そう言うと、環は更に笑った。

 

 

 

「このまま保健室に行くぞ」
「は!?」
「大人しくしてろ。」

 

 

 

嫌だーーー!!と叫ぶに構わずに、環は保健室へと向かった。

 

 

第ニ十話 第ニ十二話

 

**途中コメント**
やってしまいました…姫抱っこ(そこか)
ギリギリ友情ですよね!?主人公が否定してるから…
どうなんだろ…取る人によっては違うのか…!?
私は友情のつもりで書いたんですけど…?

あー…次は多分別話になるかもです。

06,6,18