「あのー…先輩、いらっしゃいますか?」
「?俺だけど、何か用?」
「あ…ッごめんなさい…!あ…あの…」
「?どうかした?」

 

 

 

は、俯いてしまった女子生徒を不思議そうな顔で見やった。

 

提出用のプリントを出しに行こうと、ドアに手をかけたところで、動かしてもいないのにドアが開かれた。

そして、いきなり飛び出した自分の名前に少々驚きつつも、冷静に対応した。

両手はドアを掴んだままで、赤面して俯いてしまった女子生徒。

 

今まで見たことの無い顔だな…と思いつつも、相手が顔を上げるまで暫し待つ。

 

暫くして、女子生徒が顔を上げた。

 

 

 

「あ…あの…ちょっと、来てくれますか…?」
「?いいけど…」

 

 

 

最後の方はそのまま消えていってしまうのではないかと思うくらい小さな声で。

女子生徒は一言、そう言った。

それに、意外そうな顔をしたは、簡単に了承した。

 

「あ、ちょっと待って。」と、廊下を進もうとした女子生徒に声をかけ、歩くのを制止する。

女子生徒が止まったのを確認して、は後ろを振り向いた。

 

 

 

「環ー」
「ん?何だ、
「ちょっと部活遅れるかもしれないから。後、このプリントついでに出しといて!」
「おー。了解したぞ!」
「よろしく!…じゃあ行こうか、姫。待たせちゃってごめんね?」
「い…いえ…っ////」

 

 

 

鳳と向かい合って談話していた環にそう告げて、環が頷いたのを確認してから女子生徒を促して廊下を歩き出した。

 

 

 

********************

 

 

 

「…で?話って何?」
「あ……」

 

 

 

校舎と校舎の間にある、池が出来ている見晴らしの良い場所へと移動したと女子生徒。

暫く雑談した後に、は切り出した。

途端に、顔を赤くして女子生徒は俯き加減になってしまった。

その様子には疑問符を浮かべる。

 

「あぁ…」と呟くように言ってから、は話し出した。

 

 

 

「そういえば、まだ君の名前聞いてなかったね。何て名前?」
「え……あ…志筑留美(しづきるみ)と申します。」
「そう…留美ちゃんね。可愛い名前」
「え…!?そんなことは…っ」
「くす。可愛いね、留美ちゃん。俺は……と知ってたよね。先輩って呼んでたけど、1年生?」
「あ…はい!1−Bに所属しています。」
「そう。所で、話逸らしちゃったけど。本来の目的、話してくれるよね?」
「あ……」
(まただ。また…この顔)

 

 

 

が本題を聞こうとすると、どうしてか女子生徒―志筑留美は真っ赤な顔をして俯いてしまう。

やけにモジモジしだすし、何処か落ち着かない様子だった。

普通に話している時は、落ち着いていて印象いいのに、こういうのは少し苦手なは困った顔をした。

 

 

 

「…ごめんけど、部活始まっちゃってるしそろそろ……」
「ご…ごめんなさい…っ!先輩に迷惑かけるつもりは…!」
「分かってるよ。大丈夫。怒ってるわけじゃないから、そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」

 

 

 

泣き出しそうな顔をして志筑に一瞬怯んだ後、すぐには優しげな笑みを浮かべた。

宥めるように志筑の頭をなでる。

暫くの間そうしていると、志筑も落ち着いたらしく、深呼吸をした。

そして、いきなり言った。

 

 

 

「あ…あの…!」
「ん?」
先輩が人気あるのは知ってますし、モテているのも十分承知しているつもりです…!だけど…!」
「……」
「わ…私…先輩が好きなんです!お付き合いして頂けませんか…!?」
「え――?」

 

 

 

突然出た告白の言葉に、の思考は一時停止した。

そして、すぐに思考が回転し出す。

赤かった顔を更に赤くして、志筑は顔を見せまいと更に俯き加減を深くしていた。

驚いた顔をしただが、すぐにいつもの顔に戻すと、状況を理解しようとした。

そして、一つの答えに辿り着いた。

 

 

 

「……ごめん。」
「…っ!!」
「あの…気持ちは嬉しいんだけど、俺、今はまだ誰とも付き合う気はないんだ…」
「……そう……ですよね…」
「本当にごめんね。でも、有難う。」
「いえ…私の方こそ御迷惑おかけいたしました。困らせてしまってすみません。」
「ううん。君さえ良ければ部に遊びに来てよ。いつでも指名お待ちしております。」
「はい…っ!」

 

 

 

の言葉に、ビクリと肩を震わせた志筑は悲しげな笑顔を浮かべた。

は一旦目を閉じて自分に暗示をかけると、すぐに目を開いて優しげな笑みを浮かべた。

 

お辞儀をして去って行く志筑の後姿を見送りながら、はその表情を崩さなかった。

 

 

 


「……環」

 

 

 

志筑の姿が見えなくなったのをちゃんと確認してから

部活に行こうと踵を返したの視界に、環の姿が入った。

 

 

 

「悲しそうな笑顔をしているな。今のお前は」
「……うん。ちょっと…な。」
「また…振ってしまったのか」
「しょうがないじゃないか。…他に言葉が見つからないんだよ」
「……まぁ。モテる男は辛いって事だよな。…だが、その後にそういう顔をするのは悪い癖だぞ、。」
「……分かってるよ。」
「とりあえず、部も始まっているし、お前も急げよ!」
「ああ…って環はどうしてこんな場所にいるんだ?もう部始まってるってのに…」
「ん?俺はちょっとな…」
「どうせ、ハルヒにちょっかいでも出して追い出されたんだろ?」
「ぐっ…!!」
「図星か…全く、全然勉強してないよな、お前」
「だって…だって…!父さんは心配なんだよぉ!」
「はいはい」

 

 

 

表情を戻そうとしたに、制止をかけて環は笑った。

 

その笑顔はまるで、俺の前では無理するなっと言ってくれているみたいで…

 

馬鹿なことをして励まそうとしている環に向かって、はゆっくりと微笑んだ。

 

心の中で、感謝の言葉を唱えながら。

 

 

第十八話  第二十話

 

**途中コメント**
いきなり告白される主人公。(笑)
や、こういうの書いてみたかったんですよ。
ちょっとした出来心でして…(苦笑)
志筑留美ちゃんは、今回だけの完全オリキャラです。(多分)

次回からはちゃんと本編に戻ります。

06,4,28