「――今宵集まりし仔羊達よ

この日を共に過ごす幸運と至上の美に感謝を

主の祝福と共にその扉を開き給え―」

 

 

 

時は12月24日 午後5時

 

場所は中央棟にある大広間。

 

その大広間全体に、凛とした綺麗な声がまるで歌っているかのように響き渡った。

 

 

 

「桜蘭ホスト部X’masパーティーへようこそっ!!」

 

 

 

その声に続いて、この部のキングである者の声が響いた。

 

この一言で、ホスト部主催のパーティーは、幕を開けた――

 

 

 

「「はーいvお嬢様方。カード勝負はいかが?」」

 

 

 

煩いくらいに賑わい出した大広間の中。

タキシードを身に纏った常陸院兄弟が、トランプを自在に操りながら言った。

 

 

 

「「1ゲーム勝利で1ポイント&豪華景品!得点上位獲得者には、ラストダンスを部員と踊る権利が!!」」

(…なるほど。それでダンス必須か)

「「そしてなんと!!トップ賞にはキングより祝福のキッスが!!プレゼントされます♪」」
「頑張ってね…?」

 

 

 

最後の方は愉快そうに言った双子の目の前で、環が一人の女子生徒に顔を近づけて囁いた。

顔を真っ赤にさせた女子生徒は、コクンと頷いた。

それを見て満足そうに笑った環は、その場を離れ、一人ポツンと立っているハルヒの元へと向かった。

 

 

 

「こぉら!ハルヒ!テンション低いぞ」
「う゛…こういうのは慣れていないんです。クリスマスなんて父の持ち帰ったケーキを食べるくらいで…」
「えー?じゃあ、ハルちゃん一人ぽっちー?」
「そういうことになりますか…」
「それは寂しいな。」
「そうでもないですよ?」

 

 

 

環に声をかけられ、ハルヒは振り返った。

何故か周りにはぞろぞろと部員たちが集まってきていた。

―その中にはもちろん、の姿もある。

 

 

 

「…あ。先輩、ナレーションお疲れ様でした。」
「有難う。でもま、いつものことなんだけどな。」
「そうなんですか?」
「あぁ」
の声は綺麗で澄んでるからな!こういうのにピッタリなのだよ!」
「…環と一緒というのは微妙なんだが、俺もそう思うな。」
「環、鏡夜。…なんかそう言われると照れ臭いな」
「本当のことだよ〜♪ちゃんの声、綺麗だもんーv」
「有難う、ハニー先輩」

 

 

 

照れ笑いをしたに、周りでその光景を見ていた女子生徒たちが悲鳴を上げた。

その声に驚き、全員で一斉に振り返る。

 

振り向いた部員たちに、更に悲鳴があがり、中には倒れる人まで出現した。

 

サァ…と顔を青ざめた部員たちは、一旦顔を合わせた。

そして何やら相談し合うと、すぐに散らばってお客様の接待を開始した。

 

 

********************

 

 

ちゃーん!」
「…どうしたの?ハニー先輩」

 

 

 

接待を一時止めて、裏方で足りなくなって来た料理の作成をしていたは顔をあげた。

呼ばれた方向を見ると、埴之塚が嬉々とした顔でやってきていた。

その手には、1つのケーキが握られていた。

 

 

 

「これ、ちゃんが作ったの〜?」
「うん、そうだけど。…美味しくなかった?」
「ううん!すっごく美味しいーv僕好きーv」
「…有難う、先輩」

 

 

 

満面の笑みでケーキを食べながら、埴之塚は言った。

それに笑っては返した。

 

それが言いたかっただけらしく、埴之塚はやって来た方向へと戻っていった。

 

それを嬉しそうな笑顔で見送ったは、再び作業に戻った。

 

 

 

「環」
「…。」
「これも、テーブルにおいて良いかな?」
「おお!凄いではないか!」
「そう?」

 

 

 

出来あがったばかりの料理を持って、は環に近づいた。

グラスを片手に持っていた環は、に顔を向け、続いて料理を視界に入れた。

 

そこにあったのは、デザートなのだろう、豪華そうなケーキ。

たった今作ったばかりとは思えないほどに手の込んでいるケーキを見た環は頷いた。

 

 

 

「もちろん、置いていいとも!お客様も喜ばれるだろう」
「有難う。じゃあ早速置いてくるよ。」

 

 

 

満足そうに笑ってお礼を言い、は環の側を離れ、テーブルに近づいた。

 

空いてそうな場所を探し、周りを見渡す。

 

 

 

くん。何か探してるの?」
「……春日崎さん」

 

 

 

突然声を掛けられたは見渡すのを止め、声のした方に顔を向けた。

そこにいたのは、春日崎だった。

綺麗なドレスに身を包んだ春日崎は笑って、の肩に触れた。

 

 

 

「…あら?それは?」
「あぁ。これ?俺の新作ケーキ。食べてみる?」
「遠慮しておくわ。…あぁ、場所を探していたのね。それならあそこが空いているわ。」
「有難う、春日崎さん。じゃあ俺、置いてくるね。」
「えぇ。また後で」

 

 

 

春日崎の指差した方向を見て、はお礼を言って春日崎の元から離れた。

 

「これで良し…」とケーキを置いて呟いたは、ちらっと腕時計を見た。

そして、あ…と呟くと、再度環の所へ行った。

 

 

 

「環。そろそろ時間」
「…ん?ああ…本当だな。」
「じゃあ、俺、セットしてくるから。」
「ああ。任せた。」
「おう。…そういえば、鏡夜たちは?」
「ん?あぁ…あいつらは他にやることがあるんだが…全員居ないな。」
「ふーん。まあいいや。接待、環一人で頑張って。」
「んな!?……こらーーーー!!全員でそっち行くなー!!」
「え?あ、環!?……行っちゃったし」

 

 

 

の一言で血相を変えた環は、そのまま隣の部屋へとダッシュで向かって行った。

勢いに押されたまま、止める暇も無くは呆気に取られたまま環の背中を見送った。

 

置いていかれたは、頭の後ろに手をやって嘆息した。

そして、一人頷くと、早々と大広間を出て行った。

 

 

********************

 

 

「それでは、いよいよ最後の曲(ラストワルツ)です。」

 

 

 

の声が大広間に響いた後、静かな音楽が流れ出す。

その曲に合わせて、男女二人組で踊り出していく。

もちろん、その中にはホスト部全員居る。

ナレーションをし終えたも、これから女子生徒とのダンスがあった。

マイクを直して、待っている女子生徒の元へ向かう。

 

 

 

「姫。お待たせ」
「い、いえ//そんなに待ってないです…」
「そう?じゃあ、踊ろうか?」
「は、ハイ…っ」

 

 

 

緊張しているのか、ずっと下を向いたままの女子生徒には微笑みながら言った。

手を差し出すと、少々ぎこちない動作で握り返して来た。

それを見て、可愛いなぁ…と思いながらは女子生徒の背中に片手を回した。

そして、相手をリードしながら曲に合わせて踊り出す。

 

 

 

「あ、あの…」
「ん?」
「さっきのツリー、とても綺麗でした。」
「そう。あれね、俺が準備したんだよ。」
「そうだったんですか!?凄いですね!様は!」
「そんなことないよ。単なる雑用。」
「確か、お料理の方もなさるんですよね」
「うん。今日の料理も全部俺が作ったんだ。少し、シェフに手伝ってもらったけど…」
「すごーい」

 

 

 

素直に感激してくれる相手に、は微笑んで「有難う」とお礼を言った。

環がダッシュで他の部員たちの所へ行った後、は一人で庭先に出てツリーの飾り付けをしていたのだ。

あの時言っていた”セット”とはツリーのこと。

春日崎と珠洲島の件は、環たちのお蔭で解決したようだ。

仲良く踊っている春日崎と珠洲島の姿を見て、は更に微笑んだ。

 

 

 

「「それでは、ラストイベントです!」」
「お。」

 

 

 

静かな音楽が終わり、双子の声が響いた。

その声のした方に、大広間に居た全員の視線が集まるその中で、双子が続けて言った。

 

 

 

「「本日のトップ賞である都姫に贈られます祝福のキッスをキングより……」」
「お、出番か…」
「「変更して」」
「なっ…?」
「「藤岡ハルヒ!」」
「え!?」

 

 

 

その言葉に黄色い悲鳴とハルヒと環の驚いた声とが大広間に響き渡った。

は一人、面白そうに笑った後、鳳の側にいった。

 

 

 

「鏡夜だろう?仕組んだの。」
「…当たり前だろう?普通に終わってしまっては面白くないからな。」

 

 

 

そう言って笑った鳳に、「おー怖っ」とは肩を竦めた。

そんなを見た鳳が、何やら双子に向かって指を鳴らして、合図を送った。

鳳の行動に、キョトンとしているの耳に信じ難い言葉が飛び込んできた。

 

 

 

「「藤岡ハルヒから更に変更して!」」
「え…?」
「「!!」」
「はぁ!?」

 

 

 

驚きに目を見開くを、横で黒く笑っていた鳳が「ほら、出番だぞ」と背中を押した。

前へと出されたは、驚いた表情のままトップ賞者である都姫を見た。

キャーキャー煩い女子生徒の輪の中で、は観念して都姫の両肩に手を置いた。

途端に悲鳴が大きくなる。

 

 

(……唇は流石にやばいだろうけど、頬なら構わないだろ…)

 

 

内心では焦りながら、は相手の頬に唇を近づけた。

 

 

こうして、ホスト部主催のクリスマスパーティーは終了した――

 

 

第十五話  第十七話

 

**途中コメント**
主人公がキスをしたかどうかは皆様のご想像にお任せいたします。(笑)
本当途中で無理やり終えたような感じになってしまいまして…;
しかし、これ以上いくと友情で無くなってしまうように感じたので
途中で打ちきらせていただきました;(汗)
これにてクリスマス編は終了です。次からは新しいお話に入りますー。

06,3,12