(何処か静かな場所は…)

 

 

 

勉強道具片手に、長い長い廊下を歩いている人物がいた。

 

その人物の名は藤岡ハルヒ

今年特待生としてこの高校に入学したばかりの1年生である。

 

 

 

(勉強する気ないんだったら、帰ればいいのに)

 

 

 

4つもある図書室に足を運んでみたものの、何処もうるさくて集中できなかった。

 

仕方なく、南校舎の最上階まで上がって来たハルヒは、無人の廊下を歩いた。

 

 

 

(あと静かそうな場所と言えばここぐらいしか…)

 

 

 

『第三音楽室』と書かれたプレートが飾られている扉の前に立つ。

息を吐き出して、ノブに手を置いて回して中に入る。

 

 

 

「…!?」
「「いらっしゃいませv」」

 

 

 

これは夢か…?

そう思わずにはいられない、突然目の前に現れた光景にハルヒは固まった。

我に返ると、目の前の光景に背を向けて、驚愕の表情を作る。

 

 

 

(び…びっくりした…)

「「なーんだ、男か。ちぇ、つまんないの」」
「こら、口を慎め。男だって大切なお客様だろーが」

 

 

 

顔を背けたハルヒを他所に、目の前にいた男子制服を身に纏った美麗集団が会話をしだす。

悪態をついた容姿のそっくりな二人に、1人だけ椅子に座っていた男が軽く叱る。

 

未だに背中を向けているハルヒに向かって手を伸ばして言った。

 

 

 

「桜蘭ホスト部へようこそ!世にも稀な特待生の藤岡ハルヒくん」
「え…?何で名前…?」

 

 

 

驚いて、振り向いた。

その目の前で椅子から立ちあがった男は、ツカツカとハルヒに歩み寄った。

その間に眼鏡をかけた男が説明をした。

 

 

 

「君ほどの図太い神経の持ち主でもなきゃ奨学特待生にはなれないだろうって言われてたんだ。
 これで君を知らないなんて…そいつはモグリだろう?」
「はは…」
「そう!君は言わば勇者だ!!」
「!?」

 

 

 

渇いた笑いしか出来ないハルヒの肩を、近寄ってきた金髪の男が掴んだ。

ドアップになった整った男前の顔に、ハルヒは驚いた。

 

それから、延々となにやら語りだした相手に、興味なさ気に頷いた。

 

 

 

「…で、噂のガリ勉くんにこんな趣味があるとは知らなかったが」
「は?」
「どんなのが好みかな?ワイルド系?ロリショタ系?それとも…」

 

 

 

一旦言葉を切って、前髪に手を突っ込んだ男―須王環は続けた。

ハルヒの顎に手を添えて、顔を近づけて。

 

 

 

「この俺にしてみる?」
「……は!?」

 

 

 

ゾゾっと背中に悪寒が走ったハルヒは、反射的に環から離れた。

離れた所に、可愛らしいウサギのぬいぐるみを持った小さな子がやってきた。

 

呼びなれない呼び方をしてきた相手に、キシャーと牙を向く。

 

怒りを露わにしたハルヒは、その場を離れようとした。

 

その時

 

ガシャーン!!と何かが割れる音が室内に木霊した。

音の発信源に、視線が集まる。

 

 

 

「…あぁ!!」

 

 

 

美麗集団の視線を一斉に浴びたハルヒは、驚きに目を見開いて後ろを振り返った。

そして声をあげる。

 

足元には、豪華そうな飾りのついた破片が散らばっていた。

 

 

 

「あーぁ。今度の校内オークションで出そうとしてたルネの花瓶が…」
「困ったねぇ…これ、800万からふっかけようと思ってたのに…」
「はっ…!?」

 

 

 

粉々に砕け散った残骸を目にした双子―常陸院光・馨が、呆れて言った。

眼鏡をかけた理知的そうな男―鳳鏡夜が環に聞く。

すると、環は再び椅子に座りなおして、冷汗ダラダラのハルヒに向かって容赦なく言い放った。

 

 

 

「あ゛ー…こういう諺は知っているかな?藤岡くん」
「え…?」
「”郷に入っては郷に従え””金がなけりゃ身体で払え”
 というわけで、今日からキミはホスト部の犬だ!!」
「―――!?」

 

 

 

急激に態度が変化した環の衝撃的な一言に、ハルヒは言葉を失った。

暫くの間停止していた後、意味を理解したハルヒは絶望した。

 

再び停止したハルヒの頭上から魂が抜けていった。

それに何故か手を伸ばす小さな子―埴之塚光邦と、その子を抱えている男―銛之塚崇。

他の4人もそれを見上げていた。

 

我に返り、最悪…と顔を歪めたハルヒは、床を見た。

 

 

 

(…あ、片付けないと…)

 

 

 

足元に散らばったままの破片を目にし、ボーッと考えたハルヒはその場にしゃがみ込んだ。

そして、躊躇せずに破片に手を伸ばして拾い出した。

 

その時

 

 

 

「こーらこら。女の子がそんな物触っちゃ駄目だろ?怪我でもしたらどうするんだ」
「え……?」

 

 

 

破片を拾っていた手に、男の手が重ねられた。

と同時に頭上から知らない優しい声が聞こえてくる。

 

背中に暖かさを感じたハルヒは視線を上げた。

 

するとそこにはやはり綺麗な顔をした男がいた。

困った様に笑っている相手を凝視する。

 

 

 

「…そんなに見つめられると、やり難いんだけど」
「あ…スミマセ…っ」
「別にいいけどね。」

 

 

 

クスリと笑った男に、ハルヒは顔が赤くなるのを感じた。

 

 

 

「まぁいいや。ほら、破片から手を放して。片付けなら俺がやっとくから」
「え…!?そんな悪いですよ…!」
「いーって。気にすんなよ。」

 

 

 

息を吐いた男は、慣れた手つきでハルヒの手から破片を落とした。

そして、ハルヒを立たせると、今度は自分がその場に跪いた。

慌てて止めようとするが、笑ってかわされる。

 

慌てふためいているハルヒの目の前で、男は全ての破片を拾い集めた。

 

 

 

「鏡夜」

 

 

 

男は綺麗な声で鳳を呼んだ。

立ちあがった男の元に、鳳がビニール袋らしきものを持っていった。

受け取った男は、その中に破片をいれて縛った。

 

 

 

「これで良しっと」
「…じゃないだろう、
「へ?」
「……アレをどうにかしてくれ」
「?」

 

 

 

パンパンと手を叩いた男―は、キョトンとした。

鳳が呆れた表情をして指差した方向に目を向ける。

 

 

 

〜」
「ぎゃっ!環!?」

 

 

 

泣きついてきた環を避けきれずに、見事に抱きつかれる。

一緒に後ろに倒れそうになったが、なんとか踏み止まった。

驚いたは、抱きついてる相手を引き離そうとして腕に力を込めた。

が、相手も引き離されまいと、抱きついている腕に力を込める。

 

手にしていた破片の入った袋を落とし、は環を宥めにかかった。

 

 

 

「た、環…?」
「今日は遅かったじゃないか!!心配したぞ!」
「あー…悪かったよ。ちょっと用事があってさ」

 

 

 

よしよし、と頭を撫でると、ようやく自分を取り戻したのか環は大人しくなる。

 

離れた環に微笑むと、落としてた袋を拾い上げて部屋を出て行こうとする。

 

 

 

「あ、あの…!」
「ん?」

 

 

 

そこへハルヒの待ったがかかった。

口笛を吹きながら、ゴミを捨てに行こうとしたは、振り向いた。

 

 

 

「どうかした?…あ、てかこの子どうしたん?」
「今更な発言だな、
「「ほんとだね〜」」
「双子うるさい」
「「へっへー、全然怖くないもんねー」」

 

 

 

声を揃えて言ってきた双子に、睨みを効かせてみたが効果はなかったみたいで。

逆に「ちゃん、可愛いーv」などと言われてしまう始末…

 

は溜息をつくと、ハルヒの頭に手を置いた。

 

 

 

「まぁ…どうでもいいけどさ。この子、あんまイジメんなよ。
 今度やったら俺が許さないから。特に双子」
「「えー」」
「えーじゃない!どうせ、この子に失礼なこといって怒らせたんだろ。
 花瓶が割れたのだって、自業自得だぜ。」
「そ…そんなことは…」
「いいけど。俺、コレ捨ててくるな。それにもう、部活開始の時間だぜ?
 少しは準備しろよ。特に環!」
「はっ!?何故に?!」
「ナンバー1ホストが、そんなだらしない格好でいいのか?」
「うお!?」

 

 

 

言われて見れば、少しばかり皺くちゃになっているブレザーを慌ててキチンとしなおす。

 

その様子を見たはクスリと笑うと、扉を押し開けて外に出た。

 

波瀾の日々の始まりだ―

 

 

⇒第2話

 

**途中コメント**

とうとう始めてしまいました、ホスト部夢。
テニスとは全くもって違うジャンルなので、
ごっちゃにならないよう頑張りますので、
宜しくお願いします。

そういや、まだキャラ掴んでないや…(汗)

05、11,20