―このお話は、まだホスト部が出来る前―

鳳鏡夜と、そして須王環が出会い、ホスト部が出来るまでのお話です―

 

 

 

。今日からこのクラスの一員となる須王環くんだ。」
「よろしく!”美人”さん」
「…こちらこそ。です。”美人”さんじゃないよ?」
「おお!なんて澄んだ綺麗な声なんだ!須王環だ!環と呼んでくれても構わないぞ!!」
「じゃあ、僕もでいいよ。」

 

 

 

職員室から戻って来た鳳の横に見慣れぬ男の姿を見つけ、は目を丸くした。

鳳に呼ばれて二人に近寄っていくと、満面の笑みを浮かべた同じ制服を着ている男を正面から見やる。

観察するように見ながら、そういえば今日転入生がくると朝のHRで言ってたっけ…と心の中では思う。

 

鳳がその男の名前を言うと、”須王環”と言われた男は更にその綺麗な顔に浮かべた笑みを深くして手を差し出してきた。

 

苦笑しつつその手を受け取りながら、自分の名前を名乗った。

が、相手が手を差し出す時に言った単語が気に入らなくて、少しむっとした口調で返す。

それに気付いているのかいないのか、”須王環”ともう一度相手は高らかに言った。

 

これが、と環の最初の出会いであった。

 

の環に対する第一印象は最悪なもので。

暫くの間は距離を置いたり、曖昧な相槌を打つことでその場を凌いでいた。

 

しかし、鳳と一緒につるんでいくうちに、”須王環”という人間が明らかになってきた。

それからは、第一印象なんかあっという間に消え去り、環の我侭に付き合っていくことを決めるまでに至った。

 

だが、環の我侭は相当なものということを、この時のと鳳は知る由も無かった。

 

突然、京都に行きたいと言い出したり、北海道に行こうと誘えば「期末前だから勉強せねば」などと言われてしまう始末。

その被害を受けていたのは主に鳳で、鳳の本当の顔を知っていたは本性が出ないように歯止めの役割をしていた。

 

が、環の身勝手さにいい加減ウザくなったようで、鳳は本当の顔を環にも見せたのであった。

 

そんなこんながあって、三人の友情は築かれていったのである。

 

 

 

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「なぁ、鏡夜、!面白い事を思いついたぞ!!」
「面白い事?」
。そうやって真剣に聞き返すと、後で馬鹿を見るぞ。どうせまた、環のアホな寝言だ」
「……鏡夜。どうしてお前はそういう言い方しかできないの…」

 

 

 

最初の出会いから数ヶ月経った頃

 

環の我侭で出来た鳳家の和室にあるコタツに三人で入っていた。

コタツの中でお互いの足がぶつからないように自身の足を伸ばしながら、が眉間に皺を寄せながら言った。

の話をあっさりと聞き流し、鳳は紅茶をすすった。

 

呆れた顔をして鳳を見ているの横で、環は間抜けな顔をして固まってしまっていた。

固まっていても相手にされないのが分かり、環は自ら復活すると唐突に話を続けた。

 

 

 

「部を立ち上げよう!!我々の美貌を活かしたその名は【ホスト部】!!」
「「ふざけるな…!!」」
「み゛ー!!」

 

 

 

環の口から飛び出した言葉を聞いた瞬間、声を揃えて鳳とは環を殴った。

殴られた拍子に床に寝転がってしまった環の頬を、いつのまにかコタツから出ていた鳳が踏みつける。

鳳の足の下で環が情けない声を出し、暴れた。

 

二人を見ながら暫く考えるような格好をして、は鳳を制した。

環の頬から足を退け再びコタツに入った鳳を見た後、頬を押さえながら起き上がった環に視線を移した。

 

 

 

「で、環?そのホスト部とやらは俺達だけで立ち上げるつもりなの?」
「あーそれなのだがな!メンバーはちょっと考えてみたのだ。高等部の埴之塚先輩と銛之塚先輩だろ。」
「あぁ。あの【空手部の鬼主将】と呼ばれている…」
「そうだ!それとあと2年の双子なんだが…」
「ふうん。環にしてはなかなか興味深い人選だな。」
「…その俺にしてはってのは必要ないぞ、鏡夜」
「そうか?」
「俺も鏡夜の言う通りだと思うなー。環って頭はいいけど、アホだし。」
まで…!!」

 

 

 

泣きそうな顔をした環を、鏡夜と二人顔を合わせて笑った。

 

 

 

「まあまあ、環。それよりさ、折角作ってきたケーキが冷めちゃうから、食べない?」
「ケーキ……の手作りか!?」
「え?当たり前でしょ?ね、鏡夜」
「ああ。そういえば、何か持ってきていたな。」
「うん、それが今朝できたばかりの新作。二人に食べてもらいたくて。」

 

 

 

ごそごそと、横に置いていた箱をテーブルの上に置く。

封を切って中から今朝作ったばかりの新作ケーキを取り出した。

 

そのケーキを見た途端、泣きそうになっていた環の顔が嬉々と輝いた。

 

 

 

の作るものはどれも美味いからな!」
「あはは。ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。」
「お世辞なんかではない!なあ鏡夜!」
「…そうだな。環と同じ意見というのは気に入らないが、お前の作るのはどれも美味だな。」
「鏡夜まで……全く恥ずかしいなぁ、二人とも」

 

 

 

鳳と環、二人に褒められて、は赤くなった頬を指先にポリポリとかいた。

鳳に頼んで、メイドにナイフと人数分のお皿とフォークを持ってきてもらうと、ケーキを均等に切り分けた。

切り分けたケーキをお皿に乗せ、フォークを添えて二人の前に出した。

 

 

 

「いただきます。…ん!美味い!」
「……ふむ。なかなかだな」
「本当?上手く出来て良かった。」
「…にしても珍しいよな。は」
「え?どうして?」
「金持ちの息子なのに、どうしてこんなことが出来るのだ?」

 

 

 

「まぁやろうと思えば俺も出来るが…」と、モグモグ口を動かしながら、環は言った。

空になったカップに紅茶を注ぎながら、は苦笑した。

 

 

 

「別に…趣味なだけだよ。お菓子とか作るの好きだし」
「趣味でここまで作れるようになるとはな。お前は凄いやつだな、ほんと。」
「そうかな。…なんか鏡夜に褒められるとくすぐったくなる。」

 

 

 

紅茶を啜りながら、誉められまくりのは照れ笑いを浮かべた。

 

食べ終わり、空になった箱を潰して、また環の話に耳を傾けた。

 

その後、春になり、三人は高等部に上がった。

そして、埴之塚・銛之塚・常陸院兄弟を仲間に加え、ホスト部は誕生したのでありました。

 

 

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…番外編というよりは、自己満足…?(笑)
三人が仲良しになった経緯というか…
主人公と鳳から書いた方が良かったかな…?
機会があったら書きたいです。

06,5,7